2019年6月現在、木村育生氏は(株)クロスチェックの代表取締役であり、2012年3月に小僧寿しの社長に就任した。
小僧寿しは、かつて全国に2,000店舗以上展開していた 持ち帰り寿司の専門店だ。
しかし2018年12月期の決算短信によると、直営店は116店、FCは135店舗と数を減らし、寿司業界に革命を起こした風雲児の面影はいまやすっかり色あせている。
赤字続きで誰もがさじを投げていた小僧寿し。
つまり、火中の栗だったわけだが、木村育生氏はあえて買収に乗り出した。
木村育生氏の小僧寿し買収に関して周辺の出来事を調査したところ、木村育生氏の成果と呼べる事実が発見されたので、詳細をまとめようと思う。
木村育生氏の経歴
木村育生氏は1958年に生まれ、1982年に慶應義塾大学商学部卒業後、アメリカのミシガン州立大学へ留学した。
1985年に帰国後、同時に(株)インボイスの前身となる(株)I.Q.Oを設立した。
2001年に(株)インボイスに社名変更。2011年3月にインボイス退社。2012年に小僧寿しを買収し、代表取締役社長に就任した。
その後、2014年に小僧寿しの株式を売却し、社長を辞任。
2014年11月にクロスチェックを創業した。
当時の経営状況
小僧寿しが、直営店とFC加盟店を合わせて2,000店舗を超えたのは1981年のことだ。
1991年には、チェーンで総売上1,000億円を突破した。
しかし、2000年以降業績は悪化の一途をたどる。
かっぱ寿司やくら寿司、スシローといった回転すしチェーンが急成長し、安さで対抗しきれなかった小僧寿しは次第に後退していった。
くわえて、ライバルは回転すしだけではなかった。
イオンなどの大型ショッピングセンターにはちよだ鮨や京樽が入り込み、スーパーの鮮魚コーナーもすしを提供するようになった。
宅配専門のすしチェーンとしても、銀のさらが機動性を武器に売上を伸ばした。
業績の悪化には、立地戦略の誤りも起因していた。もともと小僧寿しは住宅街立地とドミナント出店にこだわっていた。
しかし、不採算店の撤退が重なり、想定していた戦略が取れなくなっていたのだ。
そして、木村育生氏が小僧寿しを買収した2012年には、小僧寿しはすでに赤字体質に陥ってしまっていた。
買収劇のいきさつ
木村育生氏は自身が起業した通信関連企業のインボイスで株式公開し、西武ドームのネーミングライツを得るほどの成功を収めていた。
さらには、マンション管理会社のダーウィン、不動産ディベロッパーのダイナシティと続けて買収し、飛ぶ鳥を落とす勢いで事業を拡大させ、MBOにて、自身の所有株式を売却し、インボイスの全役職を退任していた。
その当時、木村育生氏が小僧寿しの買収に乗り出したのは、新規事業を手がけたいという強い思いが湧き上がったからだという。
一方で、小僧寿しは業績の低迷から2005年にすかいらーくと資本業務提携して子会社になったが、その後、提携を解消していた。
すかいらーくという飲食の専門会社が事業再生を手がけたにもかかわらず、一向に再生の兆しが見られなかったのだ。
そこで、木村育生氏はすかいらーくに代わって小僧寿しの買収に名乗り出たのだった。
木村育生氏の改革
当時のIRをみると、1年強という短い期間のため、赤字体質の脱却には至らなかったものの、木村育生氏に社長が変わってから積極的に改善策を打ち出している。
具体的には下記の通りだ。
●折込チラシの配布にかけていた広告宣伝費5億3千万円のうち、1億円をTVCMの放送に振り分け、認知度を向上
●店舗ごとに地域性を生かした新メニューを開発
●すかいらーくグループの物流チャネルからの脱却と全国物流網の再編
●マーケットに合わせた業態の開発、商店街、駅前への新規出店
●可動店舗、高級モダン店などの新業態開発、展開地域の拡大、新店舗の多様化による、販売規模の拡大
●店舗開発、FC開発、海外出店の推進を目的としたアライアンス戦略の強化
突然の社長交代
小僧寿しの改革を推し進めていた木村育生氏だったが、社長就任の翌年に辞任した。
2014年には木村育生氏が保有していた株式も一部放出され、小僧寿しは関連会社から外れたのだった。
後任の社長には三菱商事食品部出身の大西好祐氏が就任した。
これはイコールパートナーズの株式比率が52.6%から37.8%に落ちた後だ。
おそらく木村育生氏とは異なる株主の判断によるものと思われる。
現在の小僧寿し
2019年6月現在、小僧寿しは存続しており、上場維持もできてはいるものの、9期連続で赤字を計上している。
筆頭株主は牛角やとり鉄などを運営するJFLAホールディングス社だ。
つまり、飲食業を専門とする株主のもとでも赤字体質から抜け出せていない。
実は、2011年以降、小僧寿しの総資産が増加したのは木村育生氏が社長を務めた2012年12月期の決算だけなのだ。
具体的には下記のように推移している。
これらの情報を考慮すると、木村育生氏の経営手腕を1年という短い社長在籍期間だけで断ずるのは不適切ではないだろうか。
まとめ
木村育生氏の経営手腕と小僧寿しの買収を巡る議論で見落とされがちなのは、そもそも在籍期間が短かったということと、現在においても小僧寿しが黒字転換できていない惨状だ。
木村育生氏が資金の獲得において一定の成果を上げていたという事実は忘れるべきではないだろう。